なんでこんな事になったんだろ。『行きたくない』って言ったのに






おとこん 1





今ハマッている乙女ゲームアラビアンズ・ロストの夢小説を読み漁る。

「くぅ〜やっぱ良いよねアラロス!大好きだよこの設定。そしてキャラ達」

と足をじたばたさせる。これでも23歳の素敵なレディである。(そこ、引いた目で見ないで)

「あー。このゲーム大好きだけど、実際にトリップ出来るならこの世界は行きたくないなぁ」

だって危険じゃないか。一般庶民が犯罪大国へ異世界トリップだなんて。怖い。怖すぎる。
特に主要人物達には絶対絶対関わりあいたく無い。大物過ぎて命がいくつあっても足りない気がする。

「かと言って全く関わらなかったらそれはそれで危険だろうけどねー。」

ハハハ。と一人パソコンの前で笑う
まぁトリップなんてありえないけども

「さーって、明日も仕事があるからそろそろ寝よっと。」

そして私はパソコンの電源を消し眠りについた。




その日の夢はやけにリアルだった

『やぁ。 さん?』
「はぁ。そうですけど」

唐突に話しかけられる。誰だコイツ。声からして男…だよね?
中性的な超絶美形なので判別が付かない

『君、アラロス大好きなんだよね?』

にっこりと笑みつきで言われる。
こんな美形に面と向かって言われると恥ずかしいな。

「はぁ好きですけど。誰ですか貴方は。どうして私の名前を?」

ついでに誰か聞いてみる。夢だけど。

『んー…僕はの夢だから、名前を知っているんだよ。』
「答えになってませんが。」

今一瞬考えたよね!しかも名乗らない上にもう呼び捨てだし。わけが分からん…電波君か?

『話を戻すけど、もしどうしてもアラロスの世界に行かないといけないとしたら、自身の設定はどんな物が良い?』
「行きたくない」

きっぱりと即答で答える。あんな怖い世界は断固拒否する。行った途端に逝ってしまうわ!

『や、あくまでも行くと仮定しての話しだから。詳しく答えてね』

ニコニコと軽く聞かれる。人の話を聞かないタイプだなこれは。

「…そうですね。大前提として言葉が話せて文字が読めないと嫌。
 ゲームの記憶はこのままで。現時点で夜目見えないけど、鍛えたら見える感じで。
 運動神経・素早さ・動体視力が計測不可能レベルで
(じゃないと確実に即死すると胸を張って言える)、体力は敵から逃げ切れるくらいを希望。
 戦闘レベルは経験無いから1。魔法は…砂嵐防ぐための結界のみ使用可能って所で。
 魔力の量はあまり使う気が無いからいくらでも。」
『ふぅん。格好とか所持品は?』
「何でそんな詳しく聞くんですか。あれ?これ夢だよね?今私寝てんだよね???
 行くわけでもないのになんでこんな話してんの????」

混乱してきた。

『まぁまぁ。気にしない気にしない。こっちも詳しく話してね』

また軽く流される。なんなんだこの夢は。本当に夢か?
物凄く嫌な予感するんだけど。雲行き怪しい気がするんだけど!
先を促す男の目が凄く怖い。顔が笑ってるのに瞳が全然笑ってなくて怖い。
仕方が無いので素直に話す事にする。

「……格好は、ぱっと見は男と思われる格好が良いです。黒の動きやすい物で、
 上は長袖。靴は砂が入らないようにブーツ。
 日光を避けるためのフード付きのローブ。これは黒い布に紅でアクセント入ってる物で。
 所持品はシース(鞘)と固定紐付きで、黒刃のコンバットナイフとサバイバルナイフ各1本ずつと、
 細身の投げナイフ数本。国と国周辺の地図。
 下着数着。上はさらしで幾つか。日持ちする食料と水。出来ればお金も少しと、
 それ等を入れる腰に巻きつけるタイプの紅色の鞄。」

渋々ながら答える。もしあんな危険な場所に知ってて行くのなら、これは必要最低限の荷物だ。
これでも足りないと思うけど。

『わかった。じゃあ最後の質問。ギルカタールで一番居たくない場所は?』
「………は?」

今何て言ったこの人。”居たくない場所”とか言った?場所として特定は無いけど(行きたくないし)
あえて言うなら…あの人達の周り。や、会いたいは会いたいけど
いや、これに答えてはいけない気がする。
嫌な予感がじわじわと迫ってくる。

「その質問には答えられません」

夢のはずなのに、じっとり汗をかき、痛いほどの心臓の鼓動を感じていた。
現実なのか夢なのかわからなくなる
目の前のニコニコ笑っている男から威圧感が感じられ、私はじりじりと後ろへ下がる。
ある予感がさっきから離れない。ありえないと思う。でも
この目の前にいる男はきっと私を…

『へぇ。此処まで答えてくれたのに?じゃあ良いよ。の代わりに僕が答えてあげる。』

にんまりと笑顔が向けられた。だがその瞳は相変わらず全然笑っていない。

『そうだなぁ。ゲームの主要人物達の近く。でしょ?』
「なっ!」

何故分かったのだろう…。声には出さずに考えた。

『言っただろう?僕はの夢。何でもわかるんだよ。そして…君の予想通り。をあの世界へ送ってあげる』

物凄く良い笑顔で笑いやがりました。

「いらねえぇぇええええ!!!」

思わず素の自分が出た。叫ぶと同時に、私の身体はガクンと下へ落ちていく。
独特の落下感にぞわりと背中が粟立つ。

『あ。代償は“この世界の君の存在”を貰っといたからー』

またねーと奴がニッコリ笑い手を振るのが見えた。

「ちょ、無断で何とんでもない事してくれちゃってんのおぉぉぉ!!??」
『命取らないだけ僕って良心的だよね』

んなわけあるか!どっちも悪徳極まりないわ!!



こうして私は、犯罪大国ギルカタール(らしき世界)へ落とされてしまった。


これが夢なら覚めてくれ…