所変わって、スラム街。
気配丸出しで暗殺者ギルドに乗り込む
ロベルトのせいでなりふり構って居られなくなったので、最初から地で行く事にした
ただし―――イディットに対して(だって標的じゃないもーん)
まぁその流れでカーティスに私だと分かってしまうのは残念だが、仕方が無い
中に入ると強制的に部屋へ引きずられるからな。

「ちょっとそこのイディット!カーティス呼んで来い!!」
「…あんた誰だ?」

言葉遣いも声色もそのままなのに気付かないって…お前暗殺者だろ?気付け

「お前がこの前病院に訪ねて来た時に外出禁止だった人物ですよ。
もっと言うと先日ここにお使いに来た時、カーティスの部屋の扉ぶっ壊した人物だコノヤロー」
「……………は?」

頭の上に?が大量に飛んでいるのが分かる
えー…そんなに別人に見える??

「おいもっと詳しく言わないと分かんねぇの?…だよ」


一瞬の静寂



「っっっはぁ!?お前、!!!!???」
「ビックリしすぎだろ。っつーか分かれよ最初の方で」
「分かんねぇだろそんな格好してちゃ――」
「もう良いからカーティス呼んで来い…居るよな?」

ちょっぴり殺気を滲ませる

「あ、ああ…お前、何そんな殺気立ってんだ?」
「うるせぇな自分に腹立ってんだよ…」

ロベルトめ!ロベルトめ!!ロベルトめ!!!!
くそー腹いせに今度大事な本に悪戯してやる!!!

「なぁ、頼むからカーティス呼んできてくれよ。私今日はプリンセスの言い付けで、中に入っちゃいけないんだ。
あと呼ぶ時は私が来たって事だけ伝えてくれ。格好の事には触れないでくれると助かる」
「…分かった。ちょっと待ってろ」
「ありがと」

しばらく待つとカーティスが入り口からひょっこり顔を出す
私を見て少し目を見開いた

「………」
「………」

お互い無言で見つめあう

「……………」
「……私の顔に何か付いてるかしら?」
「いえ…その格好と言葉遣いどうしたんですか?

カーティスは私の体格で分かってくれた様だ
よっ流石暗殺者ギルドの長!私の着替え覗いただけの事はある!!

「今プリンセス発案の実験中なの。この口調、変?」
物凄く気持ち悪いです。戻して下さい
おい失礼だぞコラ

真顔で言われた分ショックが大きかったのですぐさま口調を戻す
もうちょっとオブラートに包んで!無理だろうけど!

「それで、実験というのは?」
「…何だ、今日はストーキングしてなかったのか?」
「ええ。なので教えてください――その胸元のキスマーク、どうしたんですか?」

ニコニコ笑い、どす黒い殺気を溢れ出しながら問われたが、気にも止めずに

「吸われた」

と簡潔に一言で答えた

「誰にですか?」
「聞いてどうすんだよ」
「あはは、決まってるじゃないですか。――殺します」

ニッコリ笑って宣言するカーティス

「駄目。言わない」

これは私が油断した結果だからな
っつーか何で殺すんだよ…ただ働きしないはずだろ?
しかも有力者同士って…殺り合ったらどっちか死ぬんじゃね?

「まぁそれは置いといて、実験内容なんだけどな?」
「置いとかな――」
「私がこういう格好したら、私を『女』として範囲内か見る実験なんだ。カーティスは私の事“範囲内”か?」
「………」

言葉を遮って実験内容を伝えると、カーティスは押し黙り、こちらに近付いてきた

「僕、出会った当初からあなたの事『好き』だと言ってるはずですけど?」
「うん。それって変わってて面白いから好きって意味だろ?今聞いてるのは“範囲内”かどうかって事だ」
「…“範囲内”ですよ?」
「そうか。お前も範囲内か」
「他は誰に聞いてきたんですか?」
「ん?タイロンは会ったんだけど聞けてなくて、あとロベルト――」
「―――…ロベルトにキスされたでしょう」

カーティスは私の顔を持ち上げ、親指で唇をなぞってきた

げ。何でバレた

「口紅が落ちかけてます」
「…私まだ何も言ってないけど?っていうか、近いから離れろ」
「離れません。…顔に出やすいんですよは。すぐに分かります」
「そんなに顔に出した覚えは無いんだけどなぁ」

これか。アイリーンが口紅いるって言ってたのは…
もしかしてキスされるって分かってたのか?
…言ってよ!

「キスマークもロベルトですよね?」
「何もすんなよ。私の獲物なんだからな!!」
「………」
「カーティス?すんなよ?」
「はぁ…わかりました」

なんでそんな渋々なんだよ

「じゃあで憂さ晴らしします」
「は?」

言うやいなや、カーティスは私の身体をくるりと反転させ、うなじに唇を寄せてきた
だんだん背中に降りてくる

「っ…、っこら!止めろよ!!」
「嫌です。ロベルトに触れさせたんですから、僕だって触れても良いでしょう?」

きつく背中を吸われた

「っぁ…跡付くから止めろ!!しかもロベルトと一緒の事言うな!」

そう叫ぶと、カーティスはピタリと動きを止めた

「もう付きました。――タイロンにも触れさせたんですか?」
「はぇ?」
「ロベルトがそう言ったという事は、タイロンがあなたに触れたからなんでしょう?」
「そうだけど、タイロンは私の理解力が乏しかったから仕方なくだよ?だって普段お前等みたいにあんな事…しないもん」

その時の事を思い出してまた顔が熱くなる
うぅ…次どういう顔で会えばいいんだ…「警告ありがとう」ってお礼言うべき???

「…どいつもこいつも邪魔ですねぇ……」
「ん?なに??」

声が小さい上に低すぎて聞こえなかった

「いいえ?――ねぇ。僕の服は着ないのに、プリンセスの頼みだと着るんですね」

唐突に話題変換されて、少し戸惑う

「え…頼みっつーか、実験だからコレ。それにお前の持ってくる服、普通の無いじゃん」
「普通の服だと着てくれるんですか?」
着ない。
「じゃあどうしろと…」
「どうもすんな。っつーか離れ、ろ!!!」

ヒールでカーティスの足を踏もうとしたら、やっと離れたので壁にもたれかかりズルズルと座りこむ

「うー…私って節操無しだよなぁ…」
「なんですか突然」
「だって、ロベルトにキスされてカーティスにも会うたびにキスされて…キスマークまで付けられて…
タイロンが気ぃ付けろって言ってくれたのに全然出来てないし…」

ズーンと落ち込んでいると、カーティスが戸惑ったように声をかけてきた

「あの…?あなたの場合は節操無しと言うのではなく、無防備と言うんですよ?」
「一緒だ。複数の人とキスしてる事に変わりは無い」

と言うか、酔ったら私キス魔になるみたいだし…最近はアルコール控えてるけど

「ん゛ーー。でもなぁ…一度相手の事信用すると、警戒しにくいんだよなぁ。
まぁ警戒心が全く無いって事は無いんだけど…どっか緩いっていうか…」
「…という事は、僕の事も信用してるって事ですか?」
「ああ」

私がそう言うと、カーティスは複雑な顔をして口を開いた

、僕が言うのも何ですが…あなた大丈夫ですか?」
「は?」
「僕を信用するなんて、無防備にも程があります」
「…ちょっと隣座れ」

眉根を寄せながらそう言うカーティスを手招きをして隣に座らせた

「お前、私の事逃がさないようにしようと思えばいくらでも出来るのに、最終的に逃がしてくれるだろ?」

カーティスの頭を撫でながら続きを喋る

「それに、今も無防備だっつって心配してくれてるみたいだしな?…ちゃんと良い所あるじゃん、お前にも」

フッと笑いかけるとプイっと顔を反対に向けられた

「何でそっち向くんだよ」
「……」
「カーティス?」

顔を見ようと膝立ちになると、ぐいっと抱き寄せられた

「ぅわっ!っおいなんだよいきなり!!」
「あなたは…」
「…ん?」
「あなたはどうしてそこまで人を信用出来るんですか?」
「どうしてって…言われてもなぁ」
「…」
「一人では生きられないから…かな」

ニッコリ笑って言うと、カーティスは呆気にとられた顔をする

「は?なぜそういう答えに――」
「だってお前、考えてみ?私は弱い生き物で、誰かの手助け無しには生きていけないんだ。
例えば、この国に来た頃は今よりもっと弱かったけど、タイロンのおかげでちょっとずつ強くなってきてるし、
ロベルトには私の本代出して貰ったり、語り合ったりしてくれるし、シャークさんは私が大怪我したら治療してくれたり
この国で手に入らない物取り寄せてくれるし…他の人達だって色々してくれるんだぞ?」
「だからと言って――」

反論するかこの子は

「まぁ聞けよ。カーティスもさ、私が怪我して病院泊まりだした頃からストーキングしだしたんだろ?心配してくれたんだよな?」
「……なぜそれを」
「とある人物からの情報。誰かは絶対教えない」

ニッと笑って誤魔化す

「………」
「それで毎朝私を追い掛け回したのはリハビリと体力つけさせる為だったんだってな。」

カーティスがピクリと反応した

「ありがとな」
「…嫌がってたじゃないですか」
「そりゃお前、ストーキング嬉しがる奴がどこにいるよ。教えて貰ってなかったら、勘違いしたままだっただろ?」
「別に、僕が勝手にした事なのでどう思われようと構いません」
「…あっち行けって言った時凹んでたくせに」

ジト目でカーティスを見ると、キョトンとした顔になる

「そんな事無いですよ?」
「お前無自覚なんだよ。鈍感め」
それはに言われたくありません
「なんだと!?私のどこが鈍感なんだよ!!」

…あ。話が逸れてる

「コホン!…とまぁそれはさて置き、私が人を信用するのは一人では生きられないって事だって理解してくれたか?」
「いいえ全く。それでどうして信用するのか理解に苦しみます」
「………うーん」

頭使うのは苦手なんだよ…

「とにかく私は一人では生きていけない自信があるから人を信じるの!!分かれ!!!」
「分かれって、そんな強引な」
「いいの!カーティスの事も信用してる!って事で、この話はおしまい!!」

強引に話を終了させた

「さて、最後の人んとこでも行くか」
「シャークの所ですか?」
「うん。行くっつーか、戻るっつーか…そろそろリハビリも終わるから、あの部屋ともおさらばだな」
「そうですか。じゃあ餞別あげます」

そう言ってカーティスは私の唇をペロリと舐めてきた

「…っ…おい!これ、どこら辺が餞別なんだ!?」
「まぁ、僕の気持ちですから、受け取って下さい。あと、口紅は付けなおした方が良いですよ」

そう言ってまだ舐めてくる。…犬か?

「…んっ…そうか。っていうか、っ、今現在されてる、状態で、っぁ…受け取れも何もっ、ないけどな!!っ放せ!!!」
「嫌です」



ニッコリ笑ったカーティスから開放されたのは、それから30分後でした。



結果報告メモ その3
カーティスには女口調を気持ち悪いと真顔で言われ、背中に吸いつかれ唇を舐められました。
こいつも私は範囲内の様です