まぁ…いっか






おとこん 28






「えー、本日は私の怪我が完治したお祝いって事でお招きいただ―――って、もうすげー飲んでるし…」

一体いつから飲んでるんだ?って程に空き瓶やグラスが転がっている
メンバーはカーティス、シャーク、ロベルトだ

「あのー、祝ってくれるのは嬉しいんだけどさ、私お酒は…」
「よっ!!〜〜待ってたぜー??」
「うわ!?ちょ、ロベルト酒臭い!絡むんじゃねぇよ!!!っ、あぁあジュースに酒を混ぜるな!!!」

ロベルトに肩を引き寄せられ、ソフトドリンクのコップにお酒を注がれる

「ちょっとお兄さーん!こっちにオレンジジュース下さい!!!」

私が頼むとお兄さんは大急ぎでジュースを持って来てくれた

対応早いな…やっぱ有力者の席だから?チラチラこっち気にしてるし

、一応祝いの席なんだし、少し位飲んでも良いんじゃねぇか?」
「う…シャークさんは私の黒歴史知らないからそんな事言えるんですよ…」
「は?黒歴史??何だそりゃ」
「あのですね、私って酔うと――むぐっ!!?」

ロベルトが手で口を塞いできた。しかも後ろからべったり抱きつかれ――
というか、ひょいっと持ち上げられそのまま椅子に座られる。
いつかと同じ、ロベルトが私を膝に乗せた状態で

「何でもねぇって!なっ!!」
「いや、あきらかに何か言いかけてただろ。」
「ロベルト…を離しなさい――殺されたいんですか?」

カーティスが殺気をダダ漏れにしてロベルトを見る

「はっ、嫌だね!こればっかりは譲れないね!!」
「余程死にたいようですね。特別に無料奉仕してあげましょうか?」
「まーまー、落ち着けよお前等。おいロベルト、が苦しがってるぞ」
「ん?おー悪ぃ、大丈夫か?これでも飲んで落ち着け」
「〜〜〜っっぷは!!っはぁ、はぁ、ッッロベルトお前ええぇぇぇえぇ!!!大丈夫か?っじゃねぇよ!!!
しかも何どさくさにまぎれて酒飲ませようとしてんの!!??ソレさっきのジュースに酒混ぜたヤツじゃん!!」
「良いだろー?せっかく酒場に居るんだし。ほら、飲めよ」
「お前が飲めよ!!!ちょ、酒は一人の時しか飲まないって決めたんだってばー!!」

ロベルトにグイグイお酒の入ったコップを口に近付けられたので、顔をずらし抗議していると
シャキンッと前方で金属の澄んだ音がした

「え…。シャキン???」




カ ー テ ィ ス が ナ イ フ を 構 え て い る 。




「――い゛!?ちょ、こらこらこらカーティス!ナイフしまえ!!!!!!私ごと殺る気!!!?!??」
「大丈夫ですよ。間違ってもあなたには当てませんから。…動かないで下さいね?」
「この状態で全く動かないとか無理じゃん!ロベルトが避けたら私も一緒に動くから!!
〜〜っシャークさんも止めてください!」

頼みの綱のシャークに声をかける

「止めとけカーティス。せっかくプライベートで酒飲みに来てんのに、俺の仕事増やすんじゃねぇよ。
――まぁ、金払うってんなら別だけどな?」
シャークさん!!!??ソコは普通に“危ないから止めろ”って止めときましょうよ!酔ってるんですか!?」
「ああ。酔ってるぜ、普通に」
「…いつから飲んでるんですか…」
「約4時間10分前」

そう言って更にグラスを傾けるシャーク

「……帰りたいんですけど。私なんで呼ばれたんだっけ…??」

酔いどれ三人組の面倒なんて見きれねぇよ!!!なにこの状況!!???

「もうっとにかくカーティス!良い子だからナイフしまいなさい!!!
ぶっ!!!

お酒を飲んでいたシャークが噴いた

「ぐ…っ!ゴホッ!!!…おま…っ」
「?どうしたんですかシャークさん、大丈夫ですか?」
「有力者相手に“良い子”はねぇだろ…つか、俺にも言ってたよな、それ」
「え。だって、人をなだめる時の常套句でしょ?まぁ、今の場合は酔っ払いですから効くか分かりませんけど」
「………。それが適用されんのは小せえ子供の場合だろ」
「そうですか?でも、カーティスも小さい子供みたいなもんですので問題ありません」
「カーティス=ナイルだぞ?!暗殺者ギルドの長だぞ???!!」
「だから何ですか。暗殺者ギルドの長がそんなに偉いんですか?否!!!私にそんな肩書き関係ありません!!!!」

そう言い放つと、三人共にぽかんとされる

「暗殺者ギルド仕切ってる長でも、私にとっては普通の友達ですからね。
どうでもいいです。――って訳でカーティス!早くナイフしまえ」
「まったく、あなたって人は…ロベルトと離れるのなら、ナイフをしまいます」
「私からくっついたんじゃ無いんだけど。ほら、ロベルト離せ。お前も良い子にしてくれるだろ?」

ロベルトにもたれ掛かりながらじぃぃ…と見上げる

「な…?離してくれるよな?」
「………」

だがロベルトはとんでもない事を仕出かしてくれた。



ちゅっ



とキスしてきたのです。

「やっぱ俺お前みたいな女見た事ねぇわ」
「〜〜〜のやろっ!こっちが大人しくしてたら!!いい加減にしろよ酔っ払い!!HANASE!!!」

ゴイン!っとあごに頭突きを喰らわせ、痛がるロベルトから離れる

「〜〜〜ぃってぇ!!、本気で痛ぇんだけど」
「ハッ!自業自得だヴァカめ!!!私の石頭っぷりを思い知れ!!!!!」
「って言うか、最後の『はなせ』って発音おかしくね?」
「うっさいな!勢いだ、いきお――っっ!!!」

その時、ぞくりと背筋が粟立った

「あ…やっべ…」

ロベルトは焦った声でポツリと呟く

正直後ろを見るのが怖い
でも…怖い物見たさって誰もが持ってるよね!

ギギギっと後ろを振り返ると――

カーティスは今までに無いくらい無表情で、物凄くどす黒い殺気を出していた。
シャークは据わった目でこちら(というかロベルト)を見ている

Wow こ…怖い…
私って今まで物凄い手加減されてたんだなって分かる位怖い
に…逃げちゃ駄目かな…?

そろりと離れようとするも、ガシッと肩を掴まれる

「どこに行くんです?
「え…い、いやぁ…別にどこってわけじゃ」
「消毒がまだですよ?」
「は?消毒…?なにそれ」
「カナデ、こっち来い」

何故かナプキンを持ったシャークに手招きされた
近付くと腕を引かれ、ゴシゴシ口を拭かれる。なんかお酒の味がする…?

「んんっ!?シャークさ…いた、痛いです!そんな強く拭かないで下さいよ」

離れようとしたら頭を両手で固定された

「っ!」
「男相手に油断し過ぎだって言ってんだろ?何度言ったら分かるんだ」
「ぅ…だって…」
「だってじゃねぇよ。良いか、今度ロベルトに捕まったら喰われると思って全力で警戒しろ。分かったな?」
「うわ…なんか俺の扱い酷くねぇ?ほんっと皆俺の事クソミソ言うよなー。っつーかカーティスだって同罪――」

カカカッ!とロベルトの足元にナイフが数本刺さる

「どわっ!!??ッカーティスてめぇ!!今本気で投げやがっただろ!!」
「いいえ?本気だったら当たってますよ」

フンと鼻で笑うカーティス

二人が本気で殺気立つ
周りのお客さんがそそくさと店を出ていこうとしている

「おい!止めろよお前等周りの人に迷惑だろ!?っつーかカーティスだってロベルトの事言えないんだからな!!
この困ったちゃんズ!!!ちょっとは自覚して大人しくしろ!!
この中でまともな人はシャークさんだけだっつーの!!!見習え!爪の垢煎じて飲ませて貰え!!!!」

この言葉にカーティスが反応してきた

「それは聞き捨てなりませんね。どういう意味ですか?シャークだってあなたにちょっかいかけるでしょう?」
「だってカーティスは私が病院から帰ってきてから毎朝また隣で寝てんじゃん。今日だってべったりくっついてたし…」
「やっぱ同罪じゃねぇか!人の事言えねぇぞカーティス」
「うるさいですね黙っててくれません?」
「んっだと!?カーティスてめっ」
「もう!うるさい!!あとシャークさんは必要以上に触れて来ないから良いの!!!!」
「なんだそれ!!シャークばっかずりぃ!!!!」
「そうですよ。シャークが良いなら僕だって良いでしょう?」
「アホか!お前等とシャークさんは全然違うだろ!!」

結局三人でぎゃあぎゃあ騒ぐ
それまで傍観していたシャークが声をかけてきた

「なぁ、いっその事引っ越したらどうだ?それでちったあマシになるだろ」
「シャーク…あなた、僕にケンカ売ってるんですか?今なら高値で買い取りますけど?」
「――あんたが頼んでる仕事道具の依頼、遅れても良いのか?」
「………。」

カーティスが押し黙る。仕事にまで事が及ぶのは避けたいのだろう
っていうか、何でこんなケンカしてんの?

「えーと、シャークさんそれは…家をもう一件買えと?無理です。別に私、お金持ちって訳じゃ無いんですよ?」

買おうと思えば買えるけど…

「まぁ、前みたいにまたカジノで稼げば――」
「は?!ちょっと待て!!ってカジノで稼いでたのか?!」

ロベルトが過剰反応して詰め寄ってくるが、シャークに後ろへ隠された

「??シャークさん?」
「黙っとけ」
「っつーかシャーク!!!お前がカジノで稼いでるって知ってたのか!?」
「ああ。初めて会った時に聞いた…俺の部屋でな?」
「っずりぃ!!!俺に教えてくれたって良いだろ!??」
「まーまーまー、落ち着け落ち着け。」
「これが落ち着いていられるか!一体どういう経緯で――」

ぎゃいぎゃいシャークに突っ掛かるロベルト。シャークはウザそうにあしらっている

…ほんとに良い人だよなー

「ロベルト…でもあの、スロットだよ?」

ひょこっとシャークの後ろから顔だけ出してロベルトに話しかける

実はほんの少しカードしてたけど…スロットより稼ぎ少ないし(だって目ぇつけられるの怖い)

「嘘だね!お前カードもしてただろ!!吐け!!!」
「っしてないよ!!!なんでそんな事言うんだよ!?」
「目ぇ泳いでんだよ!!!」

ぎゃ!タイロンに指摘されて直したつもりだったのに…!!

「くそ!カード出来ないって言ってて、ポーカー出来なかったから他のも出来ねぇと油断してた!
、今から俺と勝負しろ」
「嫌だ!私は負け戦はしない主義だっつーの!!お前とやったら身ぐるみ剥がされるだろうが」
「――やっぱしてんじゃん」

ジト目でロベルトに見つめられる

「あ゛。…ごめん今の無し!してない!!」
遅ぇ。で?何が出来るんだ?」

くっ!この子聞く耳を持ちません!!!
ほんっとゲームの事になると人が変わるんだから

「…バカラとブラックジャック。ポーカー教えて貰ってからは、それもコッソリ練習した」
「俺、お前がカードやってるの見た事ねぇけど?」
「そりゃお前のいるカジノでやってねぇもん。」
「なんでだよ」

一回のゲームで数千万G稼いでたから

なんて言えない

「……はぁ……同じトランプ二組貸して」
「は?」
「どれだけ私の腕が未熟か見せてやる。そしてガッカリしろ!!」

ロベルトからトランプを受け取り、実演する
カーティスもシャークも興味があるらしく、テーブルを囲う

「例えば、相手がコレをこうして、んで、私がこの状態で更にこうして来たらそのタイミング覚えて、
次に仕掛けてきた時に揺さぶりかけるんだ。
それから動揺した所にこうして、こうするだろ?んで、これで一気に畳みかける…と。こんな感じ」

どうだガッカリしただろ!!
と胸を張る

「…いや、普通にギャンブラーでいけるんじゃねぇか?」
「へ?」
「そうですね。普段の性格・攻撃スタイルからは想像がつかない位えげつないですし」
「ちょっとそれ酷くない!!?言っとくけど、私からイカサマ仕掛けた事無いからな!相手が使ってきた時だけだ。
カモられるの嫌だし、やられたらやり返す主義なんで。って事でロベルト、お前は勝負したく無いよな??!」
「――いいや?こんな手並み見ちまったら、是が非でも勝負してぇな」
「嘘だろ?!やだよ!!はいこれ返す」

トランプを差し出してもロベルトは受け取らない

「断る!俺と勝負しろ!!」
「何でお前が断るんだよ!?い・や・だっつってんだろ!!!!」

無理矢理トランプを突っ返す

「イカサマスキル物凄い上に、強運の持ち主ってデタラメな化け物と誰がするか!!」
「相手のイカサマ見破れんだろ?だったら俺のだって分かるかもしんねーじゃん」
「イカサマする気満々かよ!!!現役ギャンブラーのイカサマなんて分かるわけないだろ!?アホっ!!!
っつーか、もし万が一見破っちゃったら私殺されるんじゃねぇの?絶対ないけど」
「別にだったら殺さねぇよ。だからしようぜ」
「やだ。――二人だけの時ならするから今は諦めろ。な?」
「…じゃあ今日泊まりに来い」
「え、今日?そんなしたいの??んーまぁ別に良」
「駄目だ」
「駄目ですよ」

シャークとカーティスが同時に止めてきた

?今日は僕と一緒に帰る約束でしょう?」

ぎゅっと後ろから抱きしめられる

「え。そんな約束した?記憶に無いんだけど…」
「今決めました」
「それ約束じゃねぇよ!!離れろ!――ひゃっ!?」

カーティスにペロペロと耳を舐められる

「やぁっちょ…っ、、やめてっ!」
「――じゃあ僕と帰ります?」
「っ耳元で喋るな!〜〜ッ帰る!帰るから!!!」
「約束ですよ?」

そう言うとカーティスから開放されたのでテーブルに突っ伏す

「ぅ…っロベルト、昼か夕方にそっち行くから勘弁して…」
「…良いけど…お前いっつもカーティスにそんな事されてんのか?」
「いや、されて無い……たまにしか
されてんじゃん。なぁ、本気でシャークが言ってたみたいに引越した方が良いんじゃねぇ?」

ロベルトが引越しを勧めて来たら、シャークまで乗ってきた

「そうだぞ、引っ越せ。スラム街から離れろ」
「だからお金無いんですってば。別に不自由してないし、このままで良いです」
「こんな事されてんのにか?」
「いっつももっと凄いですよ?ほら見てくださいこの首のキスマーク。
寝てる間に付けられるんです。だから今日のはまだマシな方――」
「「絶対引っ越せ」」
「うぉっ!?」

急に二人揃って大声を出されビックリする

「な…何急に…」
「お前、その内喰われるぞ!!本っっっ気で油断し過ぎだ!!!」
「そうだ!早く引っ越せ!っつーか今日帰んな!!やっぱ俺んち来い!」
「え、でもさっき昼か夕方で良いって…」
「そんなん聞いて素直に帰すか!!ぜってー阻止してやる!!!」
「…一緒に帰るだけなのに?…あ。じゃあ二人とも、私の家来る?」
「「は?」」
…?何を言ってるんです?」

ピタリと動きを止めるシャークとロベルト
カーティスは固まっている

「私とカーティスが二人で帰るのが駄目なんでしょ?だったら私の家来れば良いじゃん。
カーティスも今日は家おいで?布団あるし、雑魚寝すれば皆寝れるから」
「男共と寝るなんて――」
「俺カナデの家行った事ねぇや。行くっ!!」
お邪魔します
「はい、カーティスとロベルト決定〜。シャークさんはどうしますか?」
「………行く…(こいつ等ほっといたら何するか分かんねぇからな)」
「はい。…あ、そうだシャークさんちょっとこっち来て下さい」
「??」
「おい二人とも!ちょっとシャークさんと仕事の話するから待ってて」

シャークを引っ張り隅へ移動する

、仕事の話って――」
「シャークさんのですよ。急患とか平気ですか?あったら言ってください。いざとなったら飛ばしますから」
「まぁ国内だから平気だろ。ところで飛ばすってぇのは何だ?」
「魔法です。私、移動系は何故か得意なので」

シュンッと自分の手にコップを移動させる

「人も飛ばせます」
「…それだったらさっきカーティスやロベルトからいつでも自由に離れられただろ?」
「別にあいつ等から離れたくて覚えたわけじゃありませんから。魔法使ってまで離れたいとは思いません。
それに、そんな事したら傷つくでしょ?」
「――、だからお前は…他人の心配より自分の心配しろってんだよ」
「大丈夫ですって!吸いつかれた位で死にはしません」

にへっと笑う

「………はぁ。姫さんが言ってた通りマジで病気だな。俺でも治せねぇよ」
「ちょっと。失礼ですよ!!病気じゃないって言ってるじゃないですか!!!」




と言う訳で、酔いどれ三人組をお家にご招待です