落ち着け。動揺するな。

声が震えないように気をつけながら言葉を紡ぐ

「……どこにあった?」
「引き出しからちょろっと紙の端がはみ出てた」
「…そう」

あっちゃー…酒場に行く前に書いたやつだ
いつもはちゃんと隠してるんだけど、今回は集中しすぎて待ち合わせ時間に遅れそうになったから…
って、考えてる間にカーティスもシャークも興味津々で紙覗き込んでるし…


――よし。選択肢が三つあります。どれにしよう?

1・ひたすら全力で誤魔化す
2・私にしか分からない暗号だと言う
3・復元不可能な位に木っ端微塵にする

「っ3番の後1番!!!」
「は?」

叫んだ瞬間にシュンッと私の手元に紙を移動させ、窓へ走る。
そして空に向かって紙を魔法で移動させ、威嚇魔法(クレーター作れるバージョン)で跡形も無く砕いた
魔法を発動した反動で後ろに吹っ飛び、壁に頭を思いっきりぶつける

「〜〜〜ふおぉぉ…ッッ!!ぃったい!!!」
「「「………。」」」

三人は私の行動に呆気に取られた様で、目を真ん丸にしていた

「…ふぅ〜とんだ悪戯好きの子猫ちゃんだぜ☆止めろよロベルト勝手にはみ出してる物引っ張り出すの。」

出てもいない汗を拭くマネをする

「……おい。まさかとは思うけど“子猫ちゃん”って俺の事か!?」
他に誰がいるんだよ。っていうか、もし引っ張り出した物が卑猥な物だったらどうすんの?もうっ!
あービックリした。あービックリした!!!
んちに卑猥な物とかあったらこっちの方がビックリするわ!」
「じゃあパンツだったらどうすんの?」
パッ!!??

ロベルトの顔が真っ赤になった

「〜〜ッッ騙されねぇぞ俺は!作業机にパ…下着なんて入れるわけねぇだろ!!」
チッ…なに?パンツ言うの恥ずかしいの?恥ずかしいのー??ハッ、そんな所だけ純なんですねぇ」
「お前はもっと恥じらい持てよ!!あと今舌打ちしただろ!」
「しーてーまーせーんー。恥じらい?何ですかソレ食べ物ですか??」
「うっわムカツク…!!!おいコラいい加減にしとかねーと」
「あー…ちょっと待って」

私はそう言って壁に手を付き、ゴッッ!!!と額を打ち付けた

「はっ!!??」
「え…」
「何やってんだ!!!」

上から順番に、ロベルト、カーティス、シャーク。

「――ごめんロベルト、ちょっと取り乱して八つ当たりした」

眉をハの字にして謝る。私、今相当ヘタレた顔になってるはずだ

「………許す。それより何だよ今の」
「移動魔法と威嚇魔法。」
「そんな事聞いてねぇよ!いやそっちにもビックリしたけ…って、威嚇であれか!!?
「うんまぁ魔力の調節失敗バージョンだから。普通の威嚇も出来るよ?あ、試す???」

スッとロベルトに標準を合わせる

「いらねぇよやめろ!!!!っじゃなくて、今の文字は何だっつってんだ!俺が読めないって相当だぞ?!」
「テヘッ!それはヒ・ミ・ツ☆」

バチコンとウィンクして誤魔化すと、ロベルトはジト目になった

「っうわー…すっげー怪しい」
「うるさいな!たまにはこういう事もすんだよ!!!」

そしてシャークへ無理矢理会話を移す

「…ごめんなさいシャークさん。約束破って威嚇魔法練習してました…出来ないままって悔しかったので。
カーティスもごめん。魔法嫌いなのに、目の前で使っちゃって」

シャークは眉間に皺を寄せつつも呆然とした様子だ。
実際の威力がこんな物とは思ってもいなかったんだろう。あと私が壁に頭打ちつけたからちょっと怒ってるっぽい。
カーティスはカーティスで私が魔法使ったの初めて見たから目がちょっと見開いてる

「まぁ…今回は見逃してやる。で?今の紙は何だ?」
「…構いませんよ?それより僕も、あの紙が気になります」

お。どっちもお咎めなし???ラッキー☆
でもソコはしっかり聞くのね…

「――、何でも無いですよ。ただのデザイン画ってだけで。」
「…ただのデザイン画をあんな風に扱ったりしねぇだろ。ロベルト程じゃねぇが、
俺だって職業柄、多少語学には詳しいのに見たこと無い文字だぞ?」
「同じく。他国の暗殺も請ける身として、見たこと無い文字ですよ?」

ありゃ。カーティスも便乗して来た…選択番号間違ったかな…?
んでも2の暗号説だと、そんな文字使う必要どこにあるんだよ!って問いつめられそうだし…

「…見られちゃ不味いブツだよ。そうだな…シャークさんで例えると、商品の入手経路とか秘密でしょ?
私にとってはそれと同レベル級の秘密でした。理由のベクトル違いますけど」
「………。ここに居る全員見ちまってるぞ」

この場合の『見た』は『全部記憶してる』って事なんだろうなきっと…

「まぁ…見つかるような所に置いてた私のミスです。」

髪をかき上げながら溜め息を吐く

「…はぁ…やっぱ砕いても無駄か…どうせ読めても読めなくても意味の無い物だし…」

私が問題なだけで。

自分に言い聞かせる様に言葉を発しながら、ガシガシと乱暴に頭を掻きながらウロウロしていると、
ロベルトが声をかけてきた

「…おい、大丈夫か?」
「大丈夫。そんな見られたくなかったら引き出しなんかに入れとくなっつー話だよ。
ま…文字がちょっと特殊なだけだから」
「…結局どこの文字なんだ?」

あー…いっか。文字見られちゃったし、こいつ等だったら言っても。
いつかはバレるんだし、覚悟を決める時期が早まっただけだ。

「――私が住んでた所の文字。もうね、無いんだ」

さらりと答えると、三人とも固まる

「「「…は?」」」

今日は三人とも結構ハモるなぁ。

「…ちょ、ちょっと待てよ!!無いって…何が?」
「住んでた所が」

この世界には…だけど

「…故郷が…無い???!!」
「そう。スチュアートに聞いてみ?私がプリンセスと会う前の記録全く無いから」
「あ。ソレは僕知ってました」

カーティスがハイ、と軽く手を上げる

「…そっか。私が引っ越してきた時、私の事調べたんだっけな」
「ええ。スラム街に流れてくる人間の素性は皆似たり寄ったりですが、は本当に、全く記録が無かった。
だから初めはそこに興味を持ったんですよね。」
「へぇ…殺されなかったのはそこが大きいんだな」
「――今は違いますよ?」
「そうなの?ありがとカーティス。こんな私と友達になってくれて」

そんな会話をしていると、ロベルトは絶句していた
次いでシャークが質問してくる

「この大陸じゃねぇな…どこだ?」
「んー…『此処』じゃない所…とだけ言っておきます。それ以上は言うつもりありません」

現実思考が強いこの国で、異世界から来たなんて、絶対、絶対口が裂けても言わない

「私、怪しいでしょ?」

そう言って微笑む

「――出身地が無いだけだろ。別に怪しくねぇよ」
「……ありがとうございます、シャークさん」










「さーて。それじゃ、お風呂入ります?軽く夜食にします?」
「うわ…何かその台詞新妻っぽい」

復活して最初の台詞がソレなのかいロベルトよ。
今まで固まってたのは脳内で色んな想像(妄想)でも繰り広げていたんだろうか…

「ロベルト、夢見すぎ。どうせ最後の選択肢は『それとも…私にします?』なんだろ?」

ちょっと頬を染め目を潤ませて上目遣いで見やると、ボッっとロベルトの顔が赤くなった

「絶対実際には言わないぞ。こんな――」
「…俺、にだったら毎日言ってもらいてぇな」
「え…」

目をパチクリさせながらロベルトと見つめ合っていると、
カーティスがワシッっとロベルトの襟元を掴み、玄関の方へ引きずっていく

「――ロベルト、ちょっと話があるので外に逝きましょうか
「ちょ、カーティス!!なんかニュアンスが変だったぞ?!」
「おいロベルト、金払うんだったら完璧に治療してやるからいつでも言えよ?…生きてたらな

手をヒラヒラさせながらシャークは見送っている

「っシャーク!!!てめ…」
「…ふふっ…」

私の笑い声で三人ともピタリと動きを止めた

「ふ…ありがとロベルト。でもそれは恋人に言ってもらえ?」

そう言うとロベルトはプルプルしだした

「……だっからお前鈍すぎんだよ!!!おいテメェ等!はこんだけ言っても気付かないぞ!!覚悟しとけ!!!」
「え。何に????」

コクリと首を傾ける

「「「…はぁ…」」」

本日何度目かのハモりが、空しく部屋に響いた…らしい。(確かにハモってたけど、空しかったかは謎)