・・・なんでこんな事になってんの!?




おとこん 3




前回オアシスから街へ来れたのはよかったんだけど。
その後がちょっと問題だった。
なんと!財布が入ってなかったのです。服とか荷物を乾かしてる時や、プリンセスと話してる時はまだ
あったと思うんだけど。…落とした?

昨晩は手に入れたアイテム売ったおかげで宿には泊まれたけど、問題はこれからの事だ
仕事を見つけるにしても先立つ物が無ければ行動は起こせない。かといって斡旋所には近づきたくない。
…でも斡旋所行った方がお金稼げるしなぁ…背に腹はかえられないか。
この宿から近い南の斡旋所に行ってみよ。彼の自宅といえども日中からはそうそう居ないだろうし
地図を見ながらてくてく移動し南の斡旋所へ向かう。
どうかタイロン=ベイルに出会いませんように!
祈るように扉を開け中へ入る。
仕事斡旋窓口へ向かいつつ周りに怪しまれないように見渡すと―――


―――  居  る  。



Oh〜…今日は北の斡旋所へ行こうそうしよう。
くるりときびすを返し出口へと向かう。

「おい」
「…」
「おい」
「……」

いくらかしない内に聞いた事あるような声が聞こえるけどきっと気のせいだよね!
しかもなんか呼ばれてるっぽいけどこれも気のせいだよね!!!
気にせず歩いていると背後からわしっと頭を鷲掴みされ強引に顔を回される。

「いだっ!」

ゴキッて、首がゴキッてなったんですけど!

「お前だよお前。聞こえねえのか?」
「いてて…」

涙目になりながらも相手を見上げる。―――私の予想通り南の跡取り息子さんでした
しかも額にちょっと青筋浮いてます。気ぃ短すぎだろ

だな?」

質問というよりは確認って感じのニュアンスで聞かれる。

「っ…どちら様でしょうか」

質問に質問で返してみる。謝れよ!とは怖くて口に出せません。

「…聞いてんのはこっちなんだよ」

スッと目を細められる。ヒィ!超怖い!!
ちょ、ただでさえチンピラ顔なのにそんな顔しないでお願いだから!
でもこの人に引き止められる理由とか無いと思うんだよな。怖いけど聞いとかないと

「すみません。ではその前に、一つだけ質問よろしいでしょうか」
「……」
「………」
「…チッ。なんだ」

舌打ちされた!?うあぁほんと何なの!?私が何したっていうのさ!!!

「私はどうして引き止められたんでしょう?」
「あ?肩までの黒髪黒目で、全身黒い服、黒いフード付きのローブで、
 紅色の腰鞄持ってる男がその内来るだろうから引き止めとけって言われてな」
「…」

誰に?…しかし随分素直に答えてくれたな。
っじゃなくて!なんか物凄く詳細に私の情報伝えられてるんですけど!?昨日の今日でどっからもれたんだ。
私の事そんな詳しく知ってる人物なんていな…いた。いたよ一人
え。でも何か目を付けられる様な事したっけ?記憶に無いんだけど
それよりも何故私が稼がないといけない状態になってるって知ってるんだ?


 !! ――――まさか

 別 れ 際 に 私 の お 金 ス ッ た な プ リ ン セ ス ! !


「で。お前ってんだろ?」

もう一度問われる。
だらだらと冷や汗が背中を伝う。

「………」

答えないでいると、タイロンは私の頭を鷲掴んだままの手の力を一瞬だけ入れてきた。

「いっ!?」

痛すぎて声が裏返った。

「っ何するんですか!」
「俺は短気なんだ。素直に答えねぇと――もっと痛い目みるかもな?」

ニヤリと音がつきそうな程良い笑顔(悪党的に)で笑われ、徐々に力が加えられていく
じわじわと痛みが広がってくる

「…っ!」
「こっちはお前の質問に答えてやったんだ。そっちも答えるべきだろ?なぁ」

なるほど素直に答えたのはそういう事か。
きっとプリンセスが抑えとけって言った私が何者なのか気になってるんだろうな

「ぅ…答えますからとりあえず手を離していただけませんか」
「…」

そう言うと、力は緩められて痛くない程度なんだけど、まだ頭に手は乗ったままの状態になった。

「……あの、手は離して下さらないんでしょうか」
「逃げねぇ保障は無ぇからな」

案外用心深いなチンピラのくせに(酷い)。まあ正解だけど。

「ハァ…貴方がお察しの通りですよ。私の名は。それでご用件は?」
「お前、お嬢とはどういう関係だ」
「――は?お嬢、とはどなたの事で?」

知ってるけど。

「お嬢はお嬢だ。お前知ってんだろ?」

わかんねぇよ!どんだけおおざっぱなんだよ!
…まさか名前呼ぶのが恥ずかしいとかじゃないだろうな。
仕方が無いのでこっちからほのめかしてみる

「…もしかしてプリンセスの事ですか?」
「知ってんじゃねぇか」

眉を寄せまたぐっと手に力を入れられる。

「痛っ痛いです」

ちょ、横暴ー!あんたが名前言わなかったんだろーが!
タイロンの腕をバシバシ叩きながらもがいてみるが全然離れない。むしろ力が強くなった

「あんまり手荒な事はすんなって言われたんでな。殴られないだけマシと思え」

思えるか!十分手荒っつーの!!
ちょ、このチンピラ目がマジで怖いんですけど。頭握りつぶす気!?
その時タイミングよくプリンセスが斡旋所へ入ってきた
私とタイロンの状態を見て一言。

!偶然ね」
「プリンセス…」

いや明らかに意図的だろ。
っていうかこの状況にツッコミ無しですか!?
…いっそ清々しいなこのわざとらしさ。
そこでやっとプリンセスから助けの声が入った。

「タイロン、を離して」
「でもよお嬢。コイツ離したら逃」
「――私が離しなさいって言ってるのよ」
「っ!!」

タイロンの顔がざっと青ざめたのが見えた。プリンセス…王女じゃなくて女王様みたいになってるよ?
まぁこっちはタイロンから開放されて助かったけど。

「こんにちはプリンセス。昨日はありがとうございました」
「良いのよ。あなた私の友達なんだからアイリーンで良いって言ってるのに」

にっこり挨拶された
っていうか友達って言いましたか今。

「いえそういうわけには…ところでプリンセス」
「アイリーンよ!なぁに?」

なんでそんな名前呼びを押してくるんだ。

「昨日私の財布スリましたね」
「あら。バレれてたの」

そんな可愛くペロッと舌を出して茶目っ気たっぷりに言っても誤魔化されないぞ私は。
その会話を聞いていたタイロンがおずおずと口を挟む。

「お嬢って…『普通』になりたい…んだよな?」
「えぇ勿論よ。だから今頑張ってるんじゃない。何度も言わせないで」
「人の財布をスるのは流石に『普通』じゃないんじゃ――」
「なんか言った?」
「いやっ!何でもねえ!」

ブンブンと高速で首を横に振るタイロン。…なんか哀れだなこの人。
態度違いすぎだろ。さっきのチンピラは何処へ行った。
生温かい目でタイロンを見つめていると、
アイリーンは何かを思いついたのか、ポッと頬を染め視線をやや下へと落としながらさらりと爆弾を投下する。

「だってもう一度に会いたかったんだもの」
「「…………」」

その言葉と仕草に私とタイロンは絶句した。
次の瞬間横からひやりとした空気が伝わってきて、ギギギ…とその方向を見ると
タイロンは私の事を感情の無い目で見つめていた。
ヒィッ殺られる…!闇討ちされる!!
あ。でもこういう時って直接殺しに来そうだよなータイロンの場合
………なお悪いわ!死ぬ!絶対死ぬ!!!

「ちょっプリンセスそれってどういう」
「…
「ひゃいっ!」

私が慌ててプリンセスにどういう事かを聞きだす前に
地を這うような低い声に呼びかけられた。

「お前に決闘を申し込む」

 そ う 来 た か 

「お断りします!!!大体、いきなり名前も知らない相手と決闘なんてっ」
「タイロン=ベイルだ。これで文句無ぇよ、な!」

言葉を紡ぎながら拳を構え殴りかかってくる。
それをバックステップで避けれたのは奇跡に近かった。
焦って素の自分が出る。

「わ、ちょ!…んの野郎文句あるわ!落ち着け!!」
 っていうかほんとにヤバイから!体力はそんなに無いから!!
「ほぅ…俺の拳をよけるとは中々やるじゃねえか。気に入った!」
「関心するなら聞けよ人の話をっ!〜〜〜プリンセスっこの人止めてください!!!」

タイロンから目を離さないようにしつつアイリーンに話しかける。一瞬の隙が命取りだ。

が敬語やめてアイリーンって呼んでくれたら止めてあげても良いわよ。さっきタイロンに向けた言葉みたいにね」

アイリーンはこちらを見ながらニヤニヤ笑う。
ま、まさかそれだけの為にタイロンの事たき付けたんじゃ……鬼だ。鬼がいる。
目的の為には手段を選ばないとは・・・流石ギルカタールの王女。やる事がえげつない。

「敬語解除のみ約束します!っじゃないする!するから止めっひゃあ!!ちょ、タイロン!タイロン=ベイル!!」
「あぁ?」

今度は蹴りを繰り出し連続で拳を打ち込んできた
蹴りを受け流し拳は横へ力いっぱい薙ぎ払い軌道をそらす。

「っあんたも私で遊ぶの止めろ!もう体力が限界なんだよ!避けるだけでHP減っていってんだよ!!」

いくらなんでもレベル1の私がレベル99のタイロンにこれ程持つはずが無い。
つまりは手加減されている。と、思う。

「馬鹿言うなよ人の攻撃全部捌いといて。お前みたいな奴久し振りなんだ。まだいけるだろ?ん?」
「ん?じゃねぇよいけるか!あんたと一緒にすんな!!!」

言いつつ拳ををタイロンの顎めがけて繰り出すも、簡単に避けられる

「ハッ!聞こえねぇなあ」

タイロンは私が攻撃を繰り出した事で余計に楽しくなった様で、ニッと笑った。
普通だったら瞬殺されてもおかしくないよな…
多分アイリーンに手荒な事はするなって言われた事実行中なんだと思うけど。

「〜〜〜っ場所を考えろ!斡旋所の中だぞ!あんたの職場だろ!?」
「あ…?何だお前そんな事気にしてんのか」

ピタッとタイロンが動きを止めた。
普通は気にすると思う…。

「だったらウチの鍛錬所に場所移すぞ。俺は今日暇なんだ。お嬢も来るよな?」
「えぇもちろん♪ご一緒するわv」
「いや、今日は仕事探しに来…はーーーなーーーせーーー!!!!」

逃げようとするとむんずとローブを掴まれずるずると引きずられる。



結局アイリーンがタイロンを止める事は無く、その日開放されたのは夕方だった。
今日はお金を稼ぎに来たのに!と騒ぐとアイリーンは財布を返してくれたので宿に引き続き泊まることが出来た