趣味は発掘作業です






おとこん 4







あの一件以来、なんだかんだで平和に過ごせている
アイリーンとは時々お茶したりしてほのぼのするようになったんだけど。
問題はタイロンの方だったりする。
会うと、かなりの頻度でちょっかいをかけられるようになったのだ。
機嫌が悪い時とか、機嫌が悪い時とか、機嫌が悪い時とかに。最近では剣まで使われる始末。
…その内死ぬんじゃないかな、私…あ。涙出そう…。
今日も運悪く遭遇してしまい逃亡中というわけです。
まぁタイロンのおかげでスキルや筋力は格段に上がってモンスター倒すの楽になったけど、
それとこれとは別問題だ。







というわけで、現在病院の木の上に潜伏中です。
なぜなら奴が来そうに無いから!
ほらタイロンって脳みそ筋肉族じゃん?病院とは無縁だよきっと(酷い)
それと、最近日課の『お見舞い』を実行するために。



病室に見舞い相手が居ない事を確認し、ガサリと葉が生い茂る木から顔を出す
窓辺にそっと花を置けば本日のミッションコンプリート…の筈だった。

タイミング良くメイズが入ってこなければ…

「「あ」」

やべっ
見つかっちった☆しかもハモっちゃった☆

「し、失礼しましたー…」

固まって動かないメイズを尻目に、とりあえずガサガサと葉に埋もれようとする。

「ま…待って下さい!」

思いの他大きな声で呼び止められ、動きを止めた。

「あの、最近花を置いてくれてるのはあなたですか?」
「あー…ソウデスネ」
「どうして…?」
「え、と。それは……秘密です」
「………」

良い言い訳が思いつかなかった
病院生活って暇だろうから、気晴らしになれば良いと思ったんだけど。
知らない人からいきなりそんな事言われても困るだろうしな…

「ごめんやっぱり迷惑だったよね?」
「いえそんな事は…ただ、僕に花を贈ってくれる人なんて珍しかったから」

はにかむ様に微笑まれて心が和んだ。
やっぱこの子癒し系だ。メイズが窓へ寄って来た。

「あ。僕メイズって言います。あなたは?」
「…通りすがりの黒ずくめです」

えーという顔をされたが気にしない。元から名乗る気はないし…

「では、そういうことで」

ちょっと気まずいので退散する事にした。

「待っ――うわぁ!?」

私を呼び止めようとしてか、メイズが身を乗り出しすぎて窓からズルッと落ちた。

「っメイズ!」

木から勢いをつけて落下し、メイズを左手で抱き込む。
腰から最近購入した鎖付き短刀を外壁に突き立てスピードを殺し
飛び降りても平気な高さまで来たので短刀から手を離した。
ダンッと着地したせいで両足がびりびり痺れたが、それよりも、だ。

「〜〜〜っっコラ!窓から身を乗り出すなんて危ないだろ!!」
「す、すみません」

私の腕の中でしゅんとするメイズ。
わあv可愛い…っじゃない!ちゃんと怒っとかないと…

「今から気をつけて」
「え?今からですか?」
「そう。今!この瞬間から!気・を・つ・け・て!分かった?」

抱き上げてる状態なので上目遣いでキッと睨む。

「はい!」
「よろしい」

と、やり取りをしていると、

「メイズ!!」

遠くからメイズを呼ぶ声が聞こえた。
声の方向を見ると色黒の肌にド派手な服に白衣を着た男が駆け寄って来る。
……まぁ弟に関わったら兄も来るわな。だから見つからないように見舞いしてたのに…

「兄さん」
「え。お兄さん?」
「似てないでしょう?」
「あー…見た目は似てないね」

腕が痺れてきたのでメイズを降ろす。

「大丈夫か!?怪我は?」

言いつつメイズの全身をざっとチェックしているシャーク。

「大丈夫です。この人に助けてもらったので――えと、」

メイズが言いよどんだので後を引き継いだ。

「通りすがりの見舞い客です。すいません助けるためとはいえ、建物に傷を付けてしまいました。
 修繕費はこちらで持ちます。短刀も後で回収しますので」

今でも良いけどメイズいるし、危ないからね。

「そうか。弟が世話になったな。」
「いいえ。元はと言えば、私が原因ですので」
「――どういう事だ?」

シャークの目がギラリと光る。

「兄さん。僕に花を贈ってくれていたのは、この人だったんですよ」
「ほお…」

メイズは嬉々として話していたが、シャークはこちらをジッと見ている。
め、目が怖いですよお兄さん……

「あのー、花を置いている所をですね、見られまして…それで逃げようとした私を
 引きとめようと彼が窓から身を乗り出しちゃいまして…」

しどろもどろ話す。顔は怖くて見れません…

「なるほどな。……メイズ。俺はこいつと話があるから、病室へ戻ってろ」
「…はーい」

不満そうながらもメイズは素直に病棟の方へ歩いて行った。

「で、だ。あんた名前は?」
「ですから、通りす――」
「それで通用すると思ってんのか?」

ですよねー通用しませんよねー
「…です」
「シャーク=ブランドンだ」
「………」
「………」

ち、沈黙が痛い。え、何コレ会話続けるんじゃないの?
会話のキャッチボールプリーズ!!
私が内心焦っている間もシャークはずっとこちらを見ている。

「〜〜あの、短刀回収しても?」

これ以上の沈黙は耐えられないので、鞄からしゃらりと鎖を取り出す。

「ああ。いいぜ」

あっさり許可をくれたのでシャークに背中を向け鎖を左手で引っ張り、
壁から抜け落ちてきた短刀を右手で掴んで鞘に収める。

「あ。外壁の修繕費の――」

事なんですけど、
と続けようと振り向くと、思いの他近くに居たシャークに驚く。
距離にして1歩半ほど
いつの間に近付いたんだ。私気配とか読めないからな。
…訓練しようかな

「あんた、腕痛めただろ」

唐突にシャークが口を開いたかと思えば、指摘された

「え…と……少し?」

…実はさっきから右腕が痛む。
多分二人分の体重に耐えられなかったのと、外壁で思いっきり擦れたせいだ。

「診てやるからちょっと来い」
「いいえ。この程度ならすぐ治りますので大丈夫です」

その申し出をすぐさま拒否する。

だって
診察=腕を見る→身体つきで女だとばれる。

ってなるに決まってる。駄目だ。断固拒否する!
断るとシャークがこちらへ距離をつめて来たので、その分私も後ろへ下がる。

「なんでこっち来るんですか」
「そりゃ、あんたが下がっちまうからだろ?」

私だってシャークがどんどん進んでくるから、どんどん下がるんだけど…

結果
壁際に追い詰められた。
しかもご丁寧にな事に、逃げられないよう両サイドの壁に手を付かれている。

や…ヤバイ!!!
何?なんなのこの状況!?
ちょ、これ第三者の目から見たらヤバくないか?
シャークが男に迫ってるように見えるんじゃないか?!

「あの…シャーク、さん?」
「なんだ」
「この体勢は如何なものかと思うのですが…っていうか近いです」
「気にすんな」

いや、気にするわ!
どうやって逃げようか、と何気なく院内を見ると――メイズが居た

「あ。メイズ…」
「何!?」

ポソリというと、シャークは慌てて私から離れた。

「め、メイズ!これには理由がっ」
「兄さん…何してるんですか?」

メイズが戸惑ったような、冷ややかなような視線をシャークへ向ける。

「いや、これは、だな。こいつが――」
「シャーク=ブランドンさん。修繕費についてなんですが、
 あなたの言い値でかまいません。必ず用意させて頂きます」

だからメイズに腕の事は言わないで。と小声で伝える。
シャークが何か言う前に、メイズの方へ向かう。

「違うんだメイズ。これはね、君のお兄さんが私を隠してくれてたんだ」
「え…どうしてですか?」
「私、今ちょっとかくれんぼしててね?見つかりそうだったから」
「かくれんぼ…ですか?」
「そう。見つかったら確実にボロボロにされちゃうからね」

だから君のお兄さんは私を隠してくれたんだよ、と伝えると
どうにか納得してくれたようだ。(ボロボロにされるって所に反応してくれたみたい)

「そうだったんですか。僕、兄さんの事誤解するところでした」
「あははは、それはいくらなんでも可哀想だよ」
「ふふ、そうですね」
「お前らなぁ…」

二人して笑っていると、シャークがガックリと肩を落とした




「あー…っつったっけか、あんた。やっぱちょっと来い」

メイズとひとしきり笑っていると、ガリガリと頭をかきながらシャークが話しかけてきた

「…何故ですか?」
「――隠れてえんだろ?院内の方が安心だとは思わねぇか?」

ニッっとシャークが笑った。
げ。そう来るか

「そうですね!それが良いです」

メイズもそれに賛同する。純粋な笑顔が眩しい。
うぅ…観念するか

「……わかりました。お言葉に甘えさせて頂きます。…メイズ」
「何ですか?」
「私の名前は。もし良ければ、これからも見舞いに来て良いかな?」
「!もちろんですよ!嬉しいです!!」

メイズはその日一番良い笑顔で笑ってくれた。あ〜やっぱ和むわこの子。




メイズと別れ、シャークと二人きりになった。

「で、腕の事だけどな。」
「診せませんよ?」
「なんでだよ。診せちゃまずいモンでもあんのか?」
「…特には、無いですけど…」

女と分かってしまうだけで。

「おい。じゃあなんでそんな嫌がってんだよ」
「…び、病院が嫌いなんです」

少しうつむきながらシャークから視線をそらす。

「………ほう」
「………………」

シャークさん、お願いです…
自分でも下手な言い訳だってわかってるからそんな冷たい目で見ないで。

「〜〜〜っあの!修繕費なんですけど!!」
「腕が先だ」
「ほんとに平気ですから」
「…だったらなんでさっきから右側の腕だけローブから出さないんだ?」
「…………」

メイズは気付かなかったのになぁ…良く見てるな…

「ハァ…じゃあちょっとトイレ行きましょうか
「―――は?」

シャークは意味が分からないようで、物凄い呆けた顔をしている。
この顔ちょっとレアじゃね?ラッキー☆

「自分で治療しますのでトイレ貸して下さい。と言ってるんです」
「…なんでトイレ…」
「手洗い場があるからですよ。じゃあ勝手に借りますね」

シャークを置いてすたすたと病院の案内板を見ながらトイレへ移動した。


鞄の中から消毒用アルコール、脱脂綿、ガーゼ、包帯を出し、
右の袖は擦り切れていたので引き千切った。
傷口にアルコールを思い切りかけ、脱脂綿で水気をふき取りガーゼを被せて包帯で固定する。
そして、負荷がかかった場所を圧迫するように包帯を巻いて一応の治療は終了。


トイレを出るとシャークが壁にもたれ、腕を組んだ状態で待っていた。

「…なんで居るんですか」
「修繕費の話が残ってるだろ」
「あぁ。そうでした」

腕の事で必死だったので忘れてた。
「来い」

連れて来られた場所は、なんだか見た事のある部屋だった。

「ここは?」
「俺の自室だ。」
「へぇ。そうな…」

ん?

 い ま な ん と ?

自室とか言った?軽く流しそうになったんですけど…

「すみませんもう一回お伺いしても?」
「は?だから、俺の自――」
「あ。もう良いです。で、いくら位必要ですか?」

聞き間違いじゃ無かった。聞き間違いじゃ無かった!!
やっぱ病院で商談(?)の時は自室なのか。

「そうだな…1億ぐらいか」
「分かりました。明日持ってきます」
「…あんたどっかの金持ちか何かか?」
「?いいえ?なぜですか?」
「そんな金軽く払えるからだよ」
「あぁ。その事ですか。スロットですよ」

一回辺りの平均約5000万G程(notロベルト生息地)

「ギャンブラーか?」
「まさか。たまにですよ。カードはからっきしですし」

機械相手の方が気が楽で。と伝えると

「俺の知り合いにはカードしかしねえ奴が居るが、あんたとは反対だな」

ええそうでしょうとも。これ以上有力者との接触は是非とも避けたいものです

「では、また明日お伺いしますね」
「あぁ」

部屋を出て行く前にシャークへ近付く。

「えーと、シャークさん?」
「?なんだ。なんかあんのか」

鞄から無造作に拳大の紅い石を取り出し渡す。

「この前洞窟掘ったら出てきまして。私加工出来ないので貰ってください」

持ってても重いだけなんだよなー…
商人でもあるんだから加工出来る人知ってるだろうし。

「…………

私を呼んだシャークの声は心なしか掠れている様に聞こえた。

「はい?」
「修繕費いらねえ」
「は!?」

何を言い出すんだいきなり…

「お前この石加工前でさっき言った額の軽く5倍はすんぞ」

一瞬何を言われたのか分からなかった。

「え゛…えぇーーーーーー!!!!??

それ以来、発掘した物は見せろとシャークに言われるようになりましたとさ。