*はじめに*
このお話の主人公は、milk様のアラロス連載主人公、レイン=アッシャー嬢のお話です。
ですので、まずはmilk様の素敵サイト様で連載を読んでから読まれる事をお勧めします。
むしろお邪魔するともれなくカーティスに全部持っていかれますv(ハートとかその辺)
それでは、準備は宜しいですか?
ではでは、相互記念に頂きましたお話、はじまりはじまり〜☆
睡眠不足と疲労で重い頭を抱えてゆっくりと階段を上がる。
厚く重い扉を開けると眠っていない目に砂漠の厳しい日差しが突き刺さり目が眩む。
一度きつく目を閉じて目頭を揉んでから薄く瞼を開くとそこは純白の世界だった。
――― 夢へと誘う子守唄 ―――
(何だ。シーツか・・・)
屋上に並ぶ物干し台で風に煽られてはためく大量のシーツが霞む目に眩しい。
少しの間眠るべきだとは分かっているものの今仮眠を取ってしまうと暫く起き上がることが出来なくなりそうでシャークは目覚ましがてら
病院の屋上に上がってきたところだったが、そこに流れる柔らかい歌声で既に先客が居た事とその人物が誰かを悟った彼は即座に
気配を消して事故防止と防砂の為に設けた壁の影の中をゆっくりとそちらに向いて近付いていった。
星の欠片が降り積もる 銀に光るは夜砂漠
月の光に守られて 眠るあなたに口付けを
青い光を身に纏い 静かな夜に解き放とう
月の光の弦奏で あなたの為に歌いましょう
夢の奥へと差し招く あなたの為の子守唄
日陰で足を投げ出して座り込み朗朗と歌う少女の柔らかく澄んだ声は、人肌に暖められたぬるま湯のように心の奥にひたひたと
染み渡り、その詩と柔らかく紡がれる声に自然と瞼が重くなってくる。
その目を擦り『相変わらず良い声だ』と思いながらシーツの影に身を潜めて響く歌声に浸っていると不意にその声が途切れて戸惑い
ながら呼びかけてくる声に変わった。
「・・・シャーク先生?」
シーツの影に立っていて姿は見えない上に気配を絶っているはずなのに自分が気付けない程の微かに漏れる気配だけで誰かを
言い当てる辺りは流石としか言いようがない。
「よぉ、レイン。邪魔したか?」
観念して顔を出すとゆるりと微笑んで首を振るこの少女があの暗殺者と生活を共にし、奴の気配を読んだ上に、尚且つ剣戟に興じる
事が信じられない。いや、信じられる訳が無い。
それでもこの少女の感覚の鋭さは一級品で、初めてその剣戟を目の当たりにした時は驚きから言葉もなく只あんぐりと口を開けて
見ているしかなかった。
「邪魔だなんてとんでもないです。勝手に居座ってすみません。」
「それはいいが・・・どうしたんだ?こんな所で。」
「え。聞いてませんか?」
「・・・何をだ?」
はて?と首を傾げて記憶を弄ってみても特にコイツがここに居るようなことは・・・
「今日は脳外科の診察日だったので診察を受けてきたんですけど、シャーク先生忙しそうだったから
『屋上に居るので手が開いたら教えて下さい』ってスタッフさんに言付けを頼んでおいたんですけど・・・。」
その様子だと伝わっていないようですね。と苦笑を漏らすレインの言葉に、数時間前のスタッフとのやり取りを思い出した。
『例の記憶喪失の女性が・・・』
(・・・あれか・・・。)
丁度慌しい時間帯だった事と疲労で聞き流してしまっていたらしい。
話の内容に『患者』という単語が入っていれば聞き流す事はまず無く、ベテランのスタッフ達は急ぐ用件の場合その単語を必ず入れて
来るが新入りのスタッフでその事を知らなかったのだろう。
「すまん。悪かったな・・・って、お前、あれからずっとここで待ってたのか?」
「? ええ、診察が終ったらシャーク先生の所に寄る決まりになっているでしょう?
予定が入ってれば書置きでも残しておいたんですけど今日は特に予定もないからゆっくり待ってようかなって思って。
すみません。スタッフさんも忙しいんだから伝言なんて頼まないで最初から書置き置いておくべきでしたね。」
「院内で待っていれば涼しいだろうに何だってこんな所で待ってるんだお前は。」
待たせてしまった自分が言うべき事ではないが長時間昼の屋上に居れば体力の消耗が激しいはず。
どうりでいつもより頬が赤いわけだ。
「院内に居るとスタッフさんや先生達の邪魔になってしまいますし、見るからに健康体の私が待合室で長い時間居座るっていうのもねぇ・・・。
涼みに来てるようにしか見えないでしょう?日陰に居ましたから大丈夫ですよ。」
苦笑を漏らしながら事も無げに綴られる言葉に溜息しか出ない。
(何だってコイツはこう・・・・・・ん?)
じぃっと真っ直ぐに見上げてくる曇りない漆黒の瞳の強さに僅かにたじろいでしまう。
「レイン?何だ。どうかしたか?」
「シャーク先生、今お時間ありますか?」
「ああ、一時間ほど休憩だぞ。診察行くか?」
「いえ、私の事なんてどうでもいい。そんな事よりシャーク先生です。」
「どうでもいいってお前・・・俺がどうかしたか?」
レインのこの物言いに出会った頃は嫌悪感を抱いた事も多少なりともあった。
それでも患者だという事で付き合いを重ねる内にこれが決して自分を卑下している訳ではなく、自分の事よりも他人を優先させる
彼女ならではの言葉だと知ってからは呆れはするものの好感を持てる様になった。
到底理解は出来ないが、コイツのこの他人最優先な所は嫌いではない。が、心配する身にもなって欲しいものだ。
「お疲れのようです。最近あまり眠っていないんじゃないですか?」
座れとでも言うかのように自分の隣をぺちぺちと叩きながら荷物から紙袋を取り出すレインの隣に大人しく腰を下ろす。
「最近急患が立て込んでいたからな。その上誰とは言わないがどっかの暗殺者に無理な注文を押し付けられてて、ここ数日仮眠
ばかりで昨日からはそれすら取れてないんだ。」
凝り固まった肩を回してゴキッと首の骨を鳴らしながら答えると、その『どっかの暗殺者』の一番近い場所に居る少女は申し訳なさそうに
一つ笑って紙袋を差し出して来た。
「賄賂・・・って訳ではありませんが、お菓子作ったので持って来ました。甘さ控えめにしていますので苦手でなければ食べて下さい。
で、暫く寝てください。時間になったら起こしますから。」
少しだけでも眠ると楽ですよ。と微笑むその瞳に微かにこちらを気遣う色が浮かんでいて、その言葉に甘えてしまいたくなるのを堪えて
屋上まで上がって来た経緯を話す。
「一度寝ると起きれなさそうでな・・・」
「じゃあ、ダガー突きつけてでも起こしてあげますから寝て下さい。」
「その代わりお前がメス投げつけられるぞ?」
「私がそれを避けれないとでも?」
ニヤリと笑うその笑みがとても珍しく僅かに驚いて瞠目すると、それはすぐにいつもの柔らかい笑みに戻った。
「大丈夫ですよ。メスや剣なら問題なく対処出来ます。
力技で来られたら敵わないだろうけど、ダガーを使わない程度の反撃はさせて頂きますのでそれで目が覚めるでしょう。
責任持ってちゃんと起こしますし、寝顔を盗み見したりしませんから眠って下さい。あ、それとも無理矢理眠らせてあげましょうか?」
サラッと物騒な事を言って自分の背に手を伸ばす彼女を慌てて止めると、きょとんと見つめてくるその瞳に頭を抱えてしまいそうになる。
(メスや剣なら問題なく対処出来る・・・か。)
これでもこのギルカタールの有力者なんだが。と思うも、レインの事だ俺を見下して言っている訳ではない。
事実を真っ直ぐに告げているだけだ。コイツなら本当に俺がメスを投げたとしても問題なく避けれるだろう。
ただ・・・少し真っ直ぐ過ぎだとも思う。
「じゃあお言葉に甘えて少し眠らせて貰うかな。30分程経ったら起こしてくれないか?」
「わかりました。おやすみなさい。」
その場にゴロリと寝転がって頭の下で腕を組むと、ゆるりと微笑んで柔らかく掛けられた言葉に疼きに似た温かい何かが胸に広がる。
「・・・お前は・・・」
「はい?」
「・・・いや、いい。なぁ、さっきの歌ってくれないか?よく眠れそうだ。」
「いいですけど・・・カーティスには内緒にしていて下さいね。」
絶対に!と強く念押しする彼女が珍しいと思いながらも主に何か言われているのだろう。大体予想はつくがコイツも色々と大変だ。
星の欠片が降り積もる 銀に光るは夜砂漠
月の光に守られて 眠るあなたに口付けを
青い光を身に纏い 静かな夜に解き放とう
月の光の弦奏で あなたの為に歌いましょう
夢の奥へと差し招く あなたの為の子守唄
眠りを誘うように歌われる唄は大きくも小さくも無く絶妙の声量で柔らかく優しく響き渡る。
レインはこの唄のようだ・・・と思う。
湾曲することなく真っ直ぐに、澄んだ温かな思いで相手を包む。
時に空気が震えるほどに強く、時に今のように優しく、常に他人の事ばかり考えて自分の命すら簡単に投げ出すこの少女が
時折心配になる。
自分を押し込めすぎていないかと。もっと貪欲に生きて欲しい・・・と。
そして、人の事ばかり考える優しいこの少女だからこそ幸せになって欲しいと思う。
そんな事を考えていて、ふとあの暗殺者とこの少女の掛合いを思い出して自然と口角が持ち上がった。
(ま、コイツもアイツの前では遠慮も気遣いも無く素を出せてるようだから心配ないだろう。それにコイツを傷つけるような奴が居れば
あの恐ろしい暗殺者達が集団で襲い掛かる。俺が心配する必要もない・・・か。)
目を閉じてその歌声に耳を澄ますとすぐに意識が沈んでく感覚に捕らわれる。
それに抗うことなく泥沼に嵌るように深い眠りに落ちる間際一つの声を聞いた。
「―――おやすみなさい。」
きっと慈愛に満ちたあの微笑みで居ると分かるその声に一つのイメージが重なってすぐに落ちた。
* * * * *
「シャーク先生。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「シャーク先生、30分経ちましたよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「シャーク先生ってば」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・仕方ないなぁ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「シャークせんせっ!起っきて下さーい!!」
ガキィンッ!!
有り得ないような音に驚いて目を開くとすぐ目の前に良く砥がれたダガーの刀身があり、そこには驚いた表情で固まる自分の顔が
映っていた。
「なっ!?」
「あ、おはようございます。30分経ちましたよ。」
咄嗟に身を離してメスを構える俺に「流石シャーク先生。目覚めもバッチリですね。」と、ニコニコと笑いながら自分の得物を下げる
少女が一人。
(・・・本当に抜きやがった・・・。)
「シャーク先生?まだ目が覚めませんか?目覚めの体操にちょっと私と遊んでみます?」
がくりと項垂れる俺に掛けられるのは見当違いな上に物騒極まりない一言。コイツと『遊ぶ』のは命がいくつあっても足りやしない。
(天然って恐ろしい・・・。)
それはシャークがその事実をヒシヒシと実感したひと時だった―――。
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