スチュアートの執務室にひょっこり顔を出す
「やっほー☆スチュアート」
「……勝手に入ってくるなといつも言っているだろう。何度言えば――」
「え。だって呼んだってしばらく執務室から出てきてくれないじゃん。忙しいのは分かるけどさー、
根詰め過ぎても良くないよ?タイロンなんかしょっちゅうサボってるよ??」
「あいつと一緒にされては不愉快だ。と言うか、木に登って窓から直接来るとは何事だ!!猿か貴様!!!」
「まぁまぁ。っていうか猿可愛いよねーv癒し系だよあの子たちは…」
あー…バナナが食べたい…ちょっと若めの固いやつ
「……お前とは会話が成り立たん。本当に何しに来たんだ馬鹿が」
「馬鹿言うな!このツンデレめ!!!!」
「つん…?何だと??」
あ。ツンデレ知らないのか
「あ、いいよ気にすんな。じゃあそれは置いといてー」
スイッっと横に何かを置くジェスチャーをする
「置くな。今の言葉はなんなんだ」
「良いから良いからウヒヒヒヒ☆これ、差し入れっ。ちゃんとご飯食べなきゃ駄目だろー?倒れちゃうよ?」
「気持ちの悪い笑い方をするな!…全く、どういう生き方をすればお前の様な野生の猿が出来上がるんだ」
“普通の猿”から“野生の猿”になってるし…
少し考え、答える。
「そうだなぁ…えーと、本と発掘が趣味で、石の加工が仕事の上、有力者を有力者として扱わず日々過ごして、
愛と妄想とその他諸々を良い具合にブレンドすればこんなになるんじゃね??」
「そうか突然変異か、憐れだな。」
「ちょっと酷いよ!!?っていうかさ、お前ほんと体調悪いんじゃない?顔少し赤いし、呼吸も若干乱れてるよ?」
「問題無い」
「――問題無いんなら、手ぇ出せ」
と言いながら、強制的にスチュアートの手をぎゅっと掴む。
触れた手は、やっぱり熱かった
「スチュアートの嘘吐き。熱あるじゃん」
ジト目で見ると、スチュアートは悪びれもせずにフンと胸を張ってきた
「この位無いのと同じだ。それより、放せ!私は手を止めている暇など――」
「まだ駄目。大丈夫すぐ済むって…研究中だからなぁ…上手くいくか…」
「??何を――」
そっとスチュアートの手の甲に口付けた
「なっ!!!!!????」
スチュアートはビキリと固まって動かない。
しばらくしてから、私はスチュアートから唇と手を離した
「…ん。どう?熱引いて楽になった?」
「〜〜〜き、貴様!!!いきなり何をするんだ!!!」
「?あっれ…まだ顔赤い…失敗した?スチュアート、熱は?下がった??」
私がそう言うと、ぐっと押し黙る
「――何をした」
その聞き方は、下がったって事で良いんだよね?
「ちょっとねっ☆」
ぐっと親指を立てる
「…そう言えば、魔法の書物で読んだ記憶がある。――『吸収』魔法と言う物があるそうだ。」
ギクリ
「へ、へぇ〜。そんな魔法あるんだ…」
「お前、ソレを私に施したな」
ギッと睨みつけられた
「……知らないよ?今初めて聞いたもん」
内心冷や汗ダラダラで誤魔化す
し…しまったあぁぁぁぁぁ!!!!スチュアートは魔法推奨派だったの忘れてた!!!
「そうか――手を出せ」
「………なんで?」
「対象から術者に移す魔法らしいからな。お前、私から『熱』を奪ったんだろう?」
のん!私が魔法使ったの前提にされてる…!!
「いやいやいや、スチュアートよ落ち着け?私がそんな魔法使えるわけ…」
「さっき研究中だと小声で言っていたじゃないか。吸収魔法の事なのだろう?」
うわーーぉばれてーら★
「〜〜〜ッあぁそうだよやったよ!!!何か文句あるか!!!!!」
「開き直るな!私の熱を返せ!!」
「無理!そこまで出来ない!!!!」
フン!と今度は私が胸を張る
「このお節介が!!!だからお前は馬鹿だと言うんだ!!!」
「うっさいな!ほっとけ!!!…ぅっ」
「っおい!?!」
目の前がかすみ、フラリと倒れそうになった所をスチュアートが席を立ち抱きとめてくれた
「…ありがとスチュアート」
あぁ、シャウトし過ぎて頭くらくらしてきてる。
これ…熱相当高いな。仕事人間め
「ていうか…こんな熱で仕事とか、本気で無理しすぎだろ。」
「私は平気なんだ…全く、余計な事を――」
「私が、スチュアート心配で勝手にしただけだから。だから、借りを作ったとか絶対思うなよ。
あくまでも、私が、したかったから、したんだからな?」
言い聞かせるように、ゆっくりと区切りながら言葉を発す
「………」
眉根を寄せているスチュアートの頬を両手で包み、プニュッと挟み込む
口がたこみたいになった
「ふ…変な顔…たまには休めバーカ。一日くらい、部下の人だって怒ったりしないよ?」
「………。本物の馬鹿に馬鹿などと言われたくは無い」
「うるさいな。…さて、今日は帰るわ。家に熱冷ましの薬常備してるしな」
「そんな身体で、どうやって帰るつもりだ?」
「ふふふー。それはね?最終手段の移動魔法で帰るのだよ。――心配してくれてありがとな」
「なっ?!私は別にお前の心配などっ」
「わーかってるってぇ…あ。シャークさんには絶対言うなよ?絶対怒られるから。じゃあねーお大事にー」
「カナデがその台詞を言うな」
そう言って帰ったその日の内に、自宅にシャークが怖い顔で乗り込んで来た。
う…うわーんスチュアートの裏切り者ー!!!(でも治療費出してくれてたから文句言えない)